2020-02-02

終活を委託された場合、契約書等は必要なの?|よくある例を行政書士が解説

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終活を委託された場合、契約書等は必要なの?|よくある例を行政書士が解説

この記事の目次

終活ではさまざまなことに気を配り、それぞれに対してどうして欲しいかを遺族に明示しておくことが必要不可欠です。

例えば、自身の葬儀や納骨のこと以外にも、「住んでいた家の片づけ」や「電気やガスなどの契約解除」「遺産相続の手続き」など、さまざまな物事の整理をしておく必要があります。

また、終活と言っても自身が亡くなるときだけでなく、病気などにより自身の意思表示ができなくなった時にも自身の意向を伝えるための何かを用意しておく必要もあります。

私たち行政書士は、終活で発生するさまざまな手続きについて、それらを代行したり、必要な申請書類を作成することを業務の1つにしています。

では、終活においてさまざまな行為を委任されるにあたり、どのような契約を交わしておくべきなのでしょうか。

1 故人の意向を代行できる人がいる場合は「死後事務委任契約」を締結

死後事務委任契約とは、葬儀や埋葬に関する事務を委託する契約のことです。

具体的には、故人が受任者(自身の家族や親族、あるいは司法書士・行政書士など)を選定し、生前に自分の葬儀や埋葬に関する事務についての代理権を与えることを明記した契約となります。

受任者は、故人が生前に示していた意向について、実現するために必要な手続きを行うことになります。

故人が契約の履行を確認することはできませんが、家族や親族がいる場合は、履行を確認あるいは報告する義務を負うことになっている場合も多いです。

ですから、契約に明記されている手続きなどを行わなかった場合、契約不履行で訴えられるケースも想定されます。

ただし、故人が独居老人であるなど身寄りが存在しない場合は、契約履行を確認する者がいないわけで、信頼置ける受任者を確保しておかないと不安が生じることは考えられます。

死後事務委任契約は、かかる費用を前払いするのが一般的です。

業務の量や内容によって費用は増減がありますが、行政書士に没後の葬儀や納骨までを依頼した場合、次のような内訳になります。

 

〇契約書作成の費用

契約書を作成するための費用で、相場では20万から25万程度必要です。

〇葬儀や納骨の費用

死後の葬儀や納骨等を行うための費用ですが、どのような葬儀を望むのかその内容や規模によって費用は変わってきます。

シンプルに家族葬を行ってもらい、寺院の永代供養墓に納めてもらうとした場合、費用は約50万円から100万円程度です。

〇公証役場手数料

行政書士や司法書士と契約を結ぶ場合、公証人役場の公証人にその内容を証明してもらう「公正証書」にしなくてはなりません。

この際に公証人に支払う手数料が1万1千円必要です。

 

これらの費用を積み上げていくと、安くても70万程度、高くなると130万程度の費用が必要になります。

これらは、あくまで行政書士や司法書士に依頼した場合の費用です。家族や友人などを相手方にした場合、ここまでの費用が生じることはありませんが、本当に必要な費用だけは用意して渡しておく必要はあります。

2 死後事務委任契約にはオプションがついている場合も多い

死後事務委任契約には、生前に効力を発揮するオプションがついている場合も多いです。

実際に私が勤務している行政書士事務所では、定期的な自宅訪問を行うオプションを設けています。

これは、月1回のペースで、受任者や受任者の代わりの者が委託者の自宅を訪れ、健康面でのフォローなどを行うもので、いわゆる「孤独死」を防ぐ意味でも活用されています。

この仕組み、業界的には「見守り契約」ともいわれています。

実際、親族や家族が遠方に住んでいることも多くなったご時世、終活の一環として自身の変調に気づいてもらえるセーフティーガードとして活用されている実情があります。

3 成年後見制度では「没後」のフォローが困難

高齢者や障害者の代わりに、財産などの管理をする業務として「成年後見制度」もあります。

この制度は、高齢や障害を理由に意思の表示ができなかったり、財産等の管理が困難である場合に、本人やその家族などから適任と思われる者が選任されます。

現実には、高齢者や障害者の両親や家族などが後見人となるケースもありますが、家族の事情等により行政書士や司法書士が後見人となるケースもあります。

なお、後見人は家庭裁判所により決定されなければ、法的な権限を有することはできません。

成年後見制度の場合、あくまで「生前の財産管理」や「心身の状態や生活環境の整備」が目的なので、本人が亡くなってしまうと成年後見の権限は消滅します。

ですので、没後の対応については別途死後事務委任契約を結んでおくなどして、ある程度の備えをしておかなくてはなりません。

4 遺言書と死後事務委任契約との関連性

没後の意思を明示する方法として、代表的なのは「遺言状」です。

遺言状も、死後事務委任事務と同様に「葬儀の方法」「納骨の場所」「財産の処分・相続」などを定めることができます。

適切な方法で作成された遺言書は、記載されている内容に法的な効力が発生するとされていますが、あくまで「遺産相続」において法的な効力を有するのみなのです。

ですので、遺言状に葬儀や納骨について希望を書いておいても、法律的に順守する義務はないので、実効性のないただの願望になってしまいます。

あなたが、葬儀や納骨についてこだわりたいならば、死後事務委任契約を結び、自分の意思を実行してくれる人を受任者にしておく方が確実です。

ただし、死後事務委任契約の中で遺産の分配や相続に関する取り決めをすることはできません。

つまり、没後の備えとして最も適切なのは、遺言書と死後事務委任契約を併用することと言えます。

私たち行政書士や司法書士は、両方の作成や手続き、なにより実際に葬儀や納骨を行うことができますから、受任者としてはうってつけと言えます。

もちろん、故人のご意向として、いずれか一方を行政書士に、残った方を家族や親族を相手方とすることも可能です。

5 死後事務委任契約のメリット

死後事務委任契約のメリットは、周りに頼れる家族や親族がいなくても死後の事を任せることができることや、葬儀や納骨の方法等、自分の希望を生前に伝える事ができることです。

特に、生涯独身で過ごすことになる「おひとりさま」や、子どものいない夫婦、近くに頼れる家族や親戚のいない人は、積極的に検討することをお勧めします。

また、家族がいるものの、亡くなってから後に迷惑をかけたくない場合も、第三者に死後事務委任をしておけば迷惑をかけることはありません。

私たち行政書士に、死後事務委任契約のご依頼を受けることも増えてきましたが、最近は家族や親族も高齢で、自身の死後事務を行ってもらう人がいないため、私たちにご依頼が入ってくる場合も増えてきました。

いわゆる「老々介護」と呼ばれる時代になりつつあり、子どもの世代も独身のまま年齢も50代後半に差し掛かっている「8050世帯」ともなっているため、これからも同種の依頼が多くなるものと思われます。

6 死後委任事務を請け負ってくれる人とは

一般的に、死後事務委任契約について司法書士等の専門家に相談するケースが多いようです。

やはり契約を締結する性質のものであるため、法律の専門家である司法書士に相談する場合が多いのです。

もちろん、行政書士であっても同種の相談には乗らせていただきます。実際、行政書士へ死後事務委任契約の相談が入ってくるとき、たいていの場合そのきっかけは「終活」です。

終活の相談を受ける行政書士事務所も年々増えているので、その結果として死後事務委任契約についても業務として引き受けるケースも多くなっています。

でも、終活そのものを専門にしている司法書士事務所や行政書士事務所ばかりではありません。

ですので、いきなり訪問する前に前もって相談してもらう方が期待外れにならなくて済むかもしれません。

7 死後事務委任契約に絶対盛り込んでおくべき内容とは

死後事務委任契約には、これからご紹介する内容を必ず盛り込んでおきましょう。

 

〇亡くなった事の連絡

自身が亡くなった事、その旨を伝えて欲しい親族や友人などを決め、連絡の方法や内容を決めておきます。

最近は、自身のお別れの言葉やお礼の言葉を書き記したはがきを作成しておき、没後に発送してもらうことが多くなっています。

〇葬儀・納骨に関すること

葬儀や納骨をどの様に行うのか、決まっていない場合は誰がそれを決めるのかなどを明記しておきます。

〇支払に関すること

生前に残っている債務や、老人ホームなどの入所費用、受診した際に生じた医療費等、自身が亡くなってから支払うことになる案件について、支払いの方法や財源について明記しておきます。

〇家財道具の処分

自宅の家財道具や身の回りの品物について遺品整理を依頼するとともに、特定の品物について処分の方法などを明記したり、処分の権利を委任していることを明記しておきます。

〇行政手続き

火葬場の使用、医療費などの請求について、その権限を委任していることを明記します。

 

ここまで明記しておけば、死後に行うべきであろうさまざまな業務についても、十分対応が可能です。

8 まとめ

終活を任された場合、契約書等は必要なのか。その答えは「必要である」というのが、私たち行政書士の見解です。

というのも、故人にはさまざまな意向があり、それが実行されることを一番願っているわけです。

本当に身寄りがない人はもちろんのこと、家族や親族と疎遠な人など、本当に自分の死後が丁重に扱われるのかどうか、その担保がないがために不安を抱えている人も年々増えています。

特に最近では、自身の死後のことを託すべき子どもたちが独身であったり、引きこもっているなどの事情により「託したくても託せない」状況下に置かれていることもしばしばです。

また、亡くなった事を内密にして年金を不正受給するなど、家族の在り方が変わっている中で、本当に悲しい出来事に出くわすことも多くなりました。

「子どもたちに負担をかけたくない」

実際に、私たちの事務所に相談に来られた方々は、たいていの場合この言葉を使われます。

でも、個人的には思います。子どもたちに死後の負担をかけなければ、子どもたち自身が死後のために何をすべきなのか理解できないのではないか、と。

悲しい現実ではありますが、少なくとも自分の死後のことだけは安心して天寿を全うできる、そんな世の中づくりのために私たち行政書士もなんらかの力添えができればよいと思っている今日この頃です。

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