2020-02-02
高齢者がマンションを借りるには?|よくある事例も行政書士の目線で解説
この記事の目次
高齢者世代になると、生活環境を整える時にさまざまな制約が生じます。
特に多いのは、住宅の購入や賃貸に関するときの制約です。
高齢者だけの入居とわかったとたんに、いわゆる「貸し控え」などが生じている事例も年々増加しています。
高齢者世代になると、近郊の住宅地で自動車を使って生活するというよりも、徒歩圏内に病院や商店が多く存在する市街地のマンションで生活したい傾向が高まります。
ですが、さきほどの「貸し控え」などが邪魔をして、高齢者世代が思い描くセカンドライフがなかなか実現できないケースも増えています。
では実際、高齢者世代がマンションを借りる際に留意したいことはどのようなことがあるのでしょうか。
1 高齢者世代が入居を断られる理由とは
高齢者世代がマンションやアパートなどの賃貸物件を借りる場合、基本的には通常の部屋探しと同じです。
契約までの流れも同様で、内見をして申し込みをし、契約の上で引き渡すことになりますが、高齢者の場合はせっかく話が進んでいても、次のような事情が分かった際に入居を断られる場合があるのです。
- 健康面の不安がある
- 金銭的な不安がある
- 万が一の際の不安がある
まず「健康面の不安」ですが、最近独居老人の孤独死が社会問題になっていることもあり、大家や管理会社ではこの「孤独死」予備軍をかなり恐れています。
高齢者のみで入居するとなれば、まず「健康的には問題がないですよね?」とあたりさわりがないように訪ねて来るのですが、孤独死につながるような疾病を抱えているとわかったとたんに契約を白紙に戻すケースも見られます。
実際、孤独死となってしまえば、遺体の傷みが進んでしまって悪臭や体液のシミなどが残ってしまい、最悪の場合建物を建て直さないと痕跡を消し去ることができないケースもあります。
ここまでの状態にならなくても、特定の部屋が「事故物件」となってしまえば、同じマンションやアパート自体の資産価値が低下してしまうため、貸す側としてはそのようなリスクは当然避けたくなるわけです。
そして「金銭的な不安」ですが、単純に家賃を支払ってくれるのか、ローンの償還が可能なのかを不安視するわけです。
特に高齢者の場合、仕事を退職していて、主な収入源は年金に依存しているケースも多いですから、金銭的な不安を抱かせてしまうのです。
当然、貸す側としては「家賃滞納」や「償還不能」になってしまう懸念を抱くわけで、特に高齢者の場合は家賃の滞納などが発生すると、回収することが極めて難しくなることを危惧していま支払いがないからと言って、簡単に住居を追い出すわけにもいかずと、管理会社や大矢にとってはケースがこじれると八方塞がりになってしまうわけです。
最後の「万が一の際の不安」は、居住している高齢者とトラブルが生じた時、適切に協議ができる状態なのかどうかを不安視しているという意味です。
実際、高齢者になれば認知症の危険性も高まるし、そもそも耳が遠くなったり判断能力が衰えてきますから、トラブルが生じることも増えるでしょうし、トラブルの解消を訴えても理解してもらえない可能性を危惧することになります。
入居時に保証人などがいて、入居者の子どもたちや親族など、トラブル時に対応してくれる人が別にいればいいのですが、現実はそうはいきません。
実際、今どきの高齢者世代となれば子どもたちが遠方に居を構えている場合も多く、何かトラブルが起きた時にすぐ駆けつけられるとは限らない場合もあります。
これらの要件を見直してみると、やはり「何か事が起きるかもしれない」と言うリスクについて、高齢者世代は余分に背負っているという認識があります。
これらのネガティブな認識をうまく解消する方法については、次の章で詳しくご紹介したいと思います。
2 入居審査をクリアするための方法
高齢者世代が抱えているネガティブな部分は、先ほどの章でご紹介しました。
この章では、それらのネガティブな部分の不安を解消し、入居審査をクリアするための方法をご紹介します。
〇近隣の親族などを保証人にする
入居に際し、すぐに駆け付けることのできる親族を保証人にすることです。
一番の理想は、子どもたち夫婦が車ですぐの場所に住んでいることや、大家や管理会社からの連絡にすぐ対応してくれる体制を保障することです。
また、家賃やローンの滞納など、金銭的なリスクについても、保証人になっている子どもたちが一定の収入を持ちえているならば、その子どもたちが連帯保証人になることでローン審査に落ちる確率も減少しますし、家賃の滞納もすぐに解消される可能性がアップします。
〇健康を維持する
高齢者と言ってもすぐに老け込むような時代ではなくなりました。
元気な人はとにかく元気ですし、シニア世代であってもテニスやマラソンなど、アクティブなスポーツを楽しんでいる人も多いものです。
そのような趣味を持つことで、健康面の不安を払しょくしておくことは、住居の契約交渉において好印象を与えることになります。
セカンドライフを楽しむには、健康をしっかり維持していることが必要不可欠です。ぜひ40代以降は健康維持に努めていただきたいものです。
〇金銭的に無理をしていない
セカンドライフを楽しみたいと、必要のない部屋数の物件を借りたり、使うはずのない設備にこだわったりするようでは、大家や管理会社は「本当に大丈夫だろうか?」と勘ぐってしまいます。
住居の購入であれば、いわゆる「審査」として財務状況の確認はできるのですが、住居の賃貸であれば、敷金さえ払えることがわかれば金銭的に問題があるとはみなされません。
でも、背伸びをしすぎている高齢者世代に限って、高級車に乗っているのに、電気代やガス代を滞納する、町内会費などの軽微な費用を支払わないなど、金銭の管理にルーズな面が出てきてしまいます。
実際、私のところへも賃貸アパートの大家さんから相談があり、ある高齢者夫婦の入居者について金銭的にルーズなことが多いので、財務状況を調べてくれないか?という相談をいただいたことがあります。
行政書士と言えども、ご本人の承諾を得ない限り収入や預金状況などを確認することはできませんので、ご依頼はお断りしたものの、このような相談をいただくぐらい大家さんなどはシビアに考えているということが理解できたことがあります。
3 既存の支援制度を活用する
高齢者だからある程度お金を持っていないと、住居を手に入れることはできないのか。
そんな悲しい声が聞こえてきそうですが、世の中にはさまざまな支援制度が存在しているものです。
それぞれの制度について、詳しくご紹介しましょう。
〇家賃債務保証
高齢者が物件を借りる際に財政面の保障を求められることもしばしばあります。
一般財団法人高齢者住宅財団が取り組んでいる「居住支援サービス」では、高齢者が賃貸物件を借りる際に当該財団が連帯保証人になってくれる制度があります。
〇高齢者向け賃貸住宅
高齢者向け賃貸住宅は、高齢化社会の進行とともに増加傾向にあります。
高齢者向け賃貸住宅は、バリアフリーなどの設備面の配慮がなされているものから、付随して看護師やケアマネージャーなどが常駐するケアサービスなどが用意されているものまで、さまざまなものが登場しています。
最近人気を集めているのは、UR賃貸住宅が提供する住宅です。
その種類も「高齢者向け優良賃貸住宅」や「高齢者等向け特別設備改善住宅」などさまざまで、高齢者が住みやすい環境と設備を整えた物件を扱っています。
これらの住宅は高齢者用に賃貸しているため、財政的な担保さえできれば入居を断られることはまずないでしょう。
UR賃貸住宅の中でも、特にお勧めなのは「サービス付き高齢者住宅」で、通称「サ高住」などと呼ばれています。
サービス付き高齢者住宅は、高齢者向けにバリアフリー設備などが整っているだけでなく、スタッフが部屋を定期的に訪問して健康相談などに対応してくれるものです。
このサービスがあれば、孤独死して発見が遅れることや、急病になっても速やかに対応してもらえるため、安心して居住することができます。
サービス付き高齢者住宅は、その名のとおり高齢者向けの専用住宅なので、若い世代の人は入居をすることができません。基本的には60歳以上であることを入居条件としているケースが多いです。
サービス付き高齢者住宅は、個室だけでなく共有スペースなどがあります。たとえ一人暮らしの高齢者であっても、他の居住者と交流する機会はあるため、寂しさを感じることはないでしょう。
〇セーフティーネット住宅
UR賃貸住宅のレベルではありませんが、高齢者も含めて低所得者が安価で居住できる「セーフティーネット住宅」も活用可能です。
この制度は、2017年10月に「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法」(住宅セーフティネット法)が施行されたことで登場しました。
入居できるのは、高齢者だけではなく障害者や災害の被災者、月収158,000円以下の低所得者となっています。
実際には、外国人やホームレス、犯罪被害者、DV被害者、生活困窮者、そして低所得者である高齢者などが入居可能な住宅です。また、生活保護を受給していても利用することができます。
一戸建ての空家か、マンションやアパートなど集合住宅の空室を、家主が自治体に申し出て登録されることではじめてセーフティーネット住宅として利用できます。
セーフティーネット住宅になると、家賃補助などが行政から受けられるため、大家としては空室の物件の活用ができるメリットがあり、高齢者側も負担を最小限にして住居を確保することができるメリットがあります。
ただし、あくまで既存のアパートやマンションなどを登録して使用するものであり、施設や住居の不自由さにはある程度目をつぶらなくてはなりません。
4 まとめ
現実を見ると、70歳を過ぎると賃貸物件の審査を通すのは、きわめて困難です。
高齢者ともなれば、安定した収入がなくなってしまうわけですから、ある意味ではやむを得ないことかもしれません。
少しでも良い住居に住むには、退職金などの活用や、年金基金などの活用でまとまった収入をすこしでも増やしておくことです。
収入が確保できれば、すぐに家賃が払えなくなるような状況ではありませんから、賃貸物件の審査に通ることも十分あり得ます。
絶対にマンションを借りることはできない、と断言できる状況ではありませんが、貸す側の懸念を解消するための努力は必要になってくるでしょう。