2020-02-02
空き家対策特別措置法とは?|土地の所有者を調べる方法を行政書士が解説
この記事の目次
管理が行き届かなくなったまま放置されている「空き家」
この空き家が、周辺の生活環境に悪影響を与えていることが全国的に問題となっています。
国では問題となっている空き家の現状を踏まえて「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家対策特別措置法)を定め、空き家の管理を義務付けるとともに、空き家の活用を推進する法整備を行いました。
今回はこの「空き家対策特別措置法」について、知っておきたいことをご紹介します。
1 空き家対策特別措置法とは?
空き家対策特別措置法は、人口減少が進む中で空き家の数が増加していることを踏まえて管理の行き届かない空き家が増えていることを問題視して制定されました。
空き家の管理が不十分になった結果、倒壊などの危険性が高まってしまうことで、周辺の住民に危険をもたらす事態をあらかじめ予防することを目的にしています。
また、空き家そのものの再活用を促すため、固定資産税など税金の優遇措置を見直すなど、空き家を手放して別の希望者に譲り渡しやすくする環境を整える意図もあります。
特に倒壊などの危険が迫っている空き家については、この法律により「特定空き家」として指定できるようになり、行政指導が行われるようになりました。
この行政指導に従わない場合には、罰金が科せられる場合があります。
また、特定空き家に指定されると税金の優遇措置が無くなり、固定資産税の税額が6倍になるため負担が増加します。
このように、法律に基づく行政指導に従わない場合には、相当厳しい対応をされることもあるというわけです。
2 法律を守らなかったときはどうなるの?
空き家にかかる税金としては「固定資産税」があります。
固定資産税は市区町村が定める「課税標準」によって算出されますが、土地に空き家がある場合とない場合
とでは、算出される数字が変わってきます。
まず、更地の住宅用地の場合、固定資産税の税率は(土地分)課税標準×1.4%なのに対し、空き家のある住宅用地の場合は、
(土地分)課税標準×1.4%×1/6,(建物分)課税標準×1.4%となります。
空き家があるだけで、固定資産税が6分の1になるのですから、これはかなり節税につながります。
でも、特定空き家に指定されると、この6分の1の部分が認められないわけで、単純に固定資産税が以前の6倍になってしまうわけです。
これは、程度よく管理が行き届いている空き家である、そのように適切に空き家を管理するように持ち主などに促すことが狙いなのです。
持ち主とすれば、6分の1相当分の減税を失うことは避けたいでしょう。
3 特定空き家に指定される流れとは?
空き家対策特別措置法では、自治体が改善命令を行うなど、行政指導を行う段階で、該当する空き家を「特定空き家」に指定することになります。
特定空き家に指定される、プロセスとその後の流れは以下のとおりです。
- 通報や巡回によって危険な空き家が発見される
- 自治体職員から持ち主に「告知」される
- 空き家の立ち入り調査を行い、特定空き家かどうかを判断する
- 「特定空き家」に指定して指導や助言を行う
- 持ち主が指導に従わない場合は「勧告」を行う
- 持ち主が勧告を守らない場合は期限付きの「命令」を行う
- 持ち主が命令に従わない場合は強制代執行を行う
これらのプロセスの中で、自治体職員の検査や指導が入りますが、それを拒んだり命令を期限内に実行しないと、罰則により罰金を請求されることになります。
具体的には、立ち入り調査を拒否した場合には25万円以下の罰金が、改善を命令したのに応じなかった場合には50万円以下の罰金が請求されることになっています。
罰金と言ってもいわゆる刑事罰ではないので、罰金を支払わないからといって逮捕にいたるような刑事罰を受けることはありません。
4 空き家対策特別措置法で違法となる空き家とは?
空き家対策特別措置法における「空き家」とは、長期にわたり人が住んでいない状態であるか、人の手が加わって管理されている状態に無い建物のことを言います。
特に、周辺の住民や周辺の環境に悪影響を及ぼしている「特定空き家」になると、周辺に危険をもたらす状態となっている場合も多いです。
例えば、以下のような状態になっている空き家は特定空き家に指定される可能性が高いです。
- 家屋全体が倒壊する危険をはらんでいる空き家
- ごみや害虫が繁殖していて不衛生な空き家
- 雑草が覆い茂っているなど周辺の景観を損なっている空き家
- 侵入者が住みつくなど周囲の治安を悪化させている空き家
特に、家屋全体が倒壊する危険をはらんでいる空き家は、空き家の劣化がかなり進んでいる状態です。
家を支える木材などの構造体まで劣化が進行し、その結果空き家そのものが倒壊する危険性が生じているケースも多いです。
空き家が倒壊すると、隣接する民家や道路に廃材やがれきが散乱して他人の財産を破損してしまう危険性も高まります。
場合によっては、自治体が主導して「行政代執行」として、空き家の強制解体を行うことになります。
行政代執行は本来の持ち主に替わって自治体が費用を立て替えて代わりに必要な措置を講じることです。なお、その時の費用は後日自治体から空き家の持ち主に請求される仕組みとなっています。
持ち主が自ら解体を発注した場合と、行政代執行で自治体が立て替えた費用とどちらが高いかを見てみると、圧倒的に自治体の立て替えた費用の方が高くなります。
と言うのも、自治体は入札で業者を決定するので値引き交渉を行いません。業者もそのことはわかっていますから、
一般市民から空き家の解体を受注した場合よりも高い価格で仕事を請け負いますから、かなり高額になってしまいます。
どうせ空き家を解体するなら、特定空き家に指定され自治体に高い価格で解体されてしまうより、少しでも安価な方法を見つけて空き家を解体しましょう。
あと、ごみや害虫が繁殖していて不衛生な空き家は、そこと発信源として周辺の民家に害虫などが侵入するようなことになると、その地域すべてが衛生上有害な状態となってしまいます。
ここまでの状態になれば、自治体も強制的に立ち入り害虫駆除を行う場合もありますが、この時も「行政代執行」となるため、害虫駆除に要した費用は後日持ち主に請求されることになります。
意外に多いのが、雑草が覆い茂っているなど、周辺の景観を損なっている空き家です。
実際、テレビで紹介される空き家を見ると、樹木が生い茂っていたりごみが庭に散乱していたりと見るからに汚い状態になっています。
このように、人が見て不快感を持つような状態の空き家であれば、特定空き家に指定される可能性は高くなります。
一番困るのは、侵入者が住みつくなど周囲の治安を悪化させている空き家です。
空き家対策特別措置法の基本は「周辺の住民に迷惑を掛けない」ことが第一ですが、ホームレスや不良青少年などが空き家をアジト代わりにしてしまうことで、周辺の治安が格段に悪化してしまいます。
これらのケースは、「空き家であることが分かった」時点で目を付けられてしまうことが一般的です。
防ぐためには、定期的に空き家の維持管理を行うしかありません。人の気配があれば不法侵入者も発見を恐れて近づかないでしょう。
5 空き家の持ち主がわからない場合は?
もし、空き家の持ち主がわからない場合は、法務局に出向きましょう。
当該空き家の住所(地番)を確認し、「全部事項証明書」を申請します。
全部事項証明書は、当該空き家の持ち主を確認できるもので、空き家の持ち主以外であっても取り寄せることができます。
全部事項証明書で判明するのは、空き家の登記上の持ち主の名前と住所です。もし持ち主に連絡を取りたい場合は、まずその住所に手紙を送るところか始めましょう。
場合によっては、複数名の人による共有物件である場合もありますが、その際でも「山田太郎ほか一名」などと記載され、共有で所有している人のうち1名の氏名と住所はわかるようになっています。
6 適切な空き家の管理方法とは?
適切な空き家の管理方法としては、まず周辺の住民に迷惑を掛けないように管理することが必要不可欠です。
実際、空き家対策特別措置法ができるまでは、空き家の管理に関して明確な方法や法律などはありませんでした。
空き家の状況について対策を講じるきっかけは、近隣の住民からの通報です。
こちらではきっちり管理をしているつもりでも、近隣の住民が迷惑していると判断すれば、空き家の持ち主ではなく、自治体に苦情を申し出ることも多くなりました。
近隣の住民が通報してくれば、自治体はそれに対して現状の確認をせざるを得ません。その結果、自治体から持ち主に指導が入り、対応を迫られるわけです。
実際、近隣の住民と空き家がらみでトラブルになるのは、次のようなケースが多いです。
- 庭木が隣接地にはみ出して伸びている
- 庭木の枯葉が隣接地に飛散してしまう
- 空き家の一部分が壊れて風が吹く度に音が響く
- 野良犬や野良猫などが住みついて鳴き声がうるさい
- スズメバチが庭などに巣を作って周辺を飛び回る
いずれの事例も、持ち主が放置し続けたために、近隣の住民が実害を受けてしまったことをきっかけにして通報に至るケースが多いです。
特に、野良犬に噛まれたりスズメバチに刺されるなど、身体に被害をこうむると何らかの補償も必要になってくるため、問題がより深刻になってしまいます。
実際、私が相談を受けたケースですが、隣の空き家にスズメバチの巣ができ、再三にわたってその駆除を持ち主に置き手紙などで依頼していたのに、
対応してもらえなかった結果、相談者自身がスズメバチに刺されて入院する羽目になってしまったケースがありました。
この時、再三にわたって駆除を依頼していたことについて、手紙を見ていた持ち主は危険な状態であるにも関わらず対応をしなかったとして、
相談者が警察に被害届を出した結果、手紙の存在がきっかけとなって持ち主が医療費と慰謝料を支払って和解した事例がありました。
訴訟にまで発展したため、行政書士である私の仕事は弁護士の紹介までで終わったのですが、逆に空き家を持つ身になって考えると、
近隣の住民からの苦情や要望には速やかに対応するべきであると認識するきっかけにもなりました。
ここまでのトラブルに至らないように、有料の空き家管理サービスを利用するのも方法の1つです。
アルソックやセコムなどでは、空き家に警備システムを導入する「ホームセキュリティ」だけでなく、
空き家の清掃や郵便ポストに届いた手紙などの転送サービスなど、空き家の管理に必要な作業などを有料で請け負ってくれます。
定期的に管理しておけば、スズメバチの巣ができていることなどもすぐわかったでしょうし、郵便ポストの手紙を見て、近隣住民からの苦情や要望も速やかに対応できるでしょう。
特に、空き家の持ち主が遠方にいる場合、自分自身がすぐに駆け付けて対処もできないのですから、有料の空き家管理サービスを利用するのもおすすめです。
7 まとめ
空き家対策特別措置法は、管理が不十分な空き家が発生し、周辺の住民や環境に悪影響を与えないようにするのが目的です。
ベビーブームも過去の話となり、景気も低迷している今、かつてのようにマイホームを持つ人も減り、核家族化も進行した結果、住む人を失って空き家になってしまう住宅が多くなってしまいました。
かといって、売却や賃貸にしようとしても、結婚する人たちが減少していることで、新たに住居を必要とする世帯が増えてこない状態では、空き家は空き家のまま、どんどん劣化していくだけの状況です。
空き家の管理が将来的に負担になる場合は、売却や解体も検討しましょう。最近は、空き家の解体費用の一部を助成する制度を持っている自治体も増えてきました。
自治体の助成や補助金を活用すれば解体費用の負担も軽減できますから、本当に問題となる空き家は、関係する家族や親族が元気なうちに何らかの対応をしておくことをお勧めします!