2020-02-02

相続で故人の借金が見つかって困った時は?|行政書士の目線で詳しく解説

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相続で故人の借金が見つかって困った時は?|行政書士の目線で詳しく解説

この記事の目次

故人の財産を調べているうちに、借金が見つかるケースも最近は増えています。

場合によっては、資産よりも借金の方が多くなっているケースもあり、その際には相続がかなりもめてしまいます。

このようなケースに至ったとき、「相続放棄」を選択する遺族もいます。

実際のところ、故人の借金が見つかった時、どのように対応すればいいのでしょうか。

1 借金を返済したくない場合は相続放棄をする

まず、故人の財産を調べ上げた結果、プラスになるのかマイナスになるのかを考えてみましょう。

例えば、故人が1000万円の預貯金を残したとして、妻と子ども2人に法定相続させた場合を考えてみると、妻に500万円、子ども2人に250万円ずつの相続がなされます。

でも、ここで故人に2000万円の借金が見つかったとします。法定相続の場合、借金であろうと預貯金であろうと、配分する割合は変わりません。

それぞれの人物に当てはめると、以下のような結果になります。

 

  • 妻 預貯金500万円-借金1000万円=マイナス500万円
  • 子 預貯金250万円-借金500万円=マイナス250万円

 

というように、借金まで考えると、相続しても損をするということになってしまいます。

法律上、借金はいらない、預貯金分だけ相続するという都合のいい相続はできません。

このようなケースになったとき、はじめて「相続放棄」という選択肢が生まれますが、それについては次章で詳しくご紹介しましょう。

なお、相続にあたって財産調査を行いますが、借金の有無を確認するにはCIC(信頼情報機関)へ紹介するのが確実です。

情報開示をすれば、CICに加盟しているクレジット会社等との契約内容や支払い状況等を確認できる制度です。

故人の情報については、法定相続人の誰かが申し出ることで開示請求を行うことが可能です。

この情報開示では、故人が取引していたクレジット会社やその内容が判明するだけで、

実際の借入残高や契約内容がどのようになっているかわからない場合もありますので、法定相続人としてクレジット会社等に残高証明書の作成を依頼して下さい。

2 財産放棄の意義

相続放棄は、被相続人のすべての相続財産をいっさい相続せず、最初から相続人ではなかったとみなされることを自ら申し出る行為です。

一般的に財産放棄が行われるケースとしては、故人が多額の借金をしていた場合、相続人がその借金を引き継いで支払わなくてすむためのセーフティーガードとして用いられています。

また、故人が別の誰かの連帯保証人になっていた場合でも、財産放棄をしていれば連帯保証人の地位を引き継がなくてもよくなります。

また、相続放棄をすれば最初から相続人ではなかったとみなされるため、相続人が亡くなった後、その子どもたちに相続権が移行する「代襲相続」も成立しません。

相続放棄は、一度その権利を主張した後で取り消すことはできません。

例えば、新たな財産が発見されて、結果的に相続しておけばプラスになることがわかったとしても、既に相続放棄している場合、他の相続人などがそれを相続することになります。

なお、法定相続人にあたる人すべてが相続放棄した場合、残された預貯金や借金の清算を行う必要があり、それを行うのが「相続財産管理人」です。

相続財産管理人は、相続に利害関係を持っている人、あるいは検察官が家庭裁判所に申し立てることで選任された弁護士等が務めることが多いです。

相続財産管理人は、預貯金等の財産を売却等して現金化し、それを借金返済の原資に充てて清算することになりますが、

それでも借金が残った場合であっても追加の費用を投入されることはなく、「一部は返ってこなかったけど我慢してください」と、法律上の手続きはすべて完了することになります。

3 財産放棄の方法

相続放棄の方法には、家庭裁判所を通じて行う方法と、遺産分割協議書に定める方法との2種類があります。

それぞれの方法について、具体的な方法をご紹介します。

 

○家庭裁判所を通じて行う方法

家庭裁判所に相続放棄を申し立てて、その決定をゆだねる方法です。

家庭裁判所を通して相続放棄手続きを行うと、預貯金も借金も、あるいは将来的に見つかった預貯金や借金も含めて、すべての遺産についても相続放棄したと見なされます。

例えば、負債があるかないかわからない状況であったり、相続してプラスになることがわかっていたとしても特に相続を希望しない場合、

相続する不動産の管理が手間なので最初から相続したくないなど、これらの理由があれば十分に財産放棄は認められます。

また、他の相続人と人間関係が悪化しており、交渉等で顔を合わせたくない場合なども家庭裁判所を経由しての方法を選ぶ人もいます。

 

○遺産分割協議書に定める方法

一般的な相続の際には、遺産の配分を定める「遺産分割協議書」を作成します。

これを作成するときに、自分は何も相続しない遺産分割協議書を作って署名捺印することで、自分の相続分を放棄する意思を表す方法です。

ただし、この方法では「自分の相続分を放棄する」意味合いになるので注意が必要です。

また、家庭裁判所を通していないので第三者機関の決定というよりは、当事者全員が同意したことを表現する「契約」として解釈されるものです。

この方法のメリットは、裁判所を通さないのでその分の手間や費用が抑えられることです。

また、故人の法定相続人全員が相続放棄した場合、故人の直系尊属や傍系となる兄弟姉妹が新たな相続人となる可能性がありますが、この方法であればそれらの可能性をシャットアウトできます。

ただし、遺産分割協議書は相続人間で取り決めた内容についての書面となるため、債権者に対しては相続分の放棄を宣言する効力がありません。

遺産分割協議書上、相続人同士では相続放棄をして一緒に負債も放棄していますが、その判断そのものを債権者が受け入れるかは別問題だからです。

場合によっては、債権者が遺産分割協議書の内容などは一切考慮せず、負債について相続人に請求してくる可能性があることは忘れないでください。

4 相続放棄に関するトラブル

それでは、実際に相続放棄を行った際に起こりやすいトラブルについて、私が実際に関わった案件を中心にご紹介します。

本当にこんなことが起きるのか、と思うようなことが起きる、それが相続だと私は思います。

これから相続を迎えるみなさんには、ぜひ参考になさっていただきたいと思います。

 

〇母親にすべての遺産を相続させようと思ったのに

父が亡くなり、母と子ども3名が法定相続人になりました。

母に一人暮らしを強いる状況でもあったので、すべての遺産を母に相続してもらいたいと、子どもさん全員が相続放棄を申し出たケースがありました。

このケース、最初は家庭裁判所で相続放棄手続きをしようとしていました。と言うのも、利害関係は一致しているものの、子どもさん同士の折り合いが悪かったのです。

できれば、お互いの顔を見ないで相続放棄をしようとしたのですが、家庭裁判所に相続放棄を行うと、

「もともと相続する権利がなかった」とみなされるだけで、相続順位が次の人に回ることを理解されてはいなかったのです。

もし、本当に家庭裁判所に手続きをしてしまっていたら、次の相続順位となる両親や兄弟、甥や姪など別の相続人が登場し、思うように相続が進まなくなっていたでしょう。

そのことを私からお伝えすると、仕方がないといわんばかりに3人の子どもが一堂に会し、遺産分割協議書に記名押印をして済ませました。

この時、遺産分割協議書に「配偶者にすべての財産を相続させる」と記載しておけば、次の相続順位の人が登場することもないので、親子だけの話し合いで相続手続きが進められます。

 

〇他の親族へ迷惑をかけるかもしれない

故人であるお父様に借金が見つかり、相続してもマイナス収支になってしまうことが分かったため、家庭裁判所を経由してお母様と子どもさん2名が相続放棄をしようとしました。

先ほども触れましたが、家庭裁判所を経由した場合、次の相続順位の人に権利が移動するわけで、借金についてもその考え方は一緒です。

権利の移動についても前もってお話ししましたが、親族にはこちらから話しておく、親族自身も相続放棄をしてくれれば被害は及ばないだろう、と言うことではありましたが、私は「だろう」が不安で、遺産分割協議書を用いて決めましょう、と提案しました。

結局、私の提案を受け入れてくださったので私の心配は杞憂に終わったのですが、もしこのまま家庭裁判所を経由していたら、親族のところに債権者からいきなり請求書が来ていたかもしれません。

ちなみに、借金の相続放棄は被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に行なわなければなりません。もし、3ヶ月を過ぎてしまうと原則として相続放棄ができなくなります。

借金に関連する相続放棄は、借金1円たりとも返済する必要がないので、被相続人に借金がある場合には実際に用いられているケースが多いです。

もちろん、親族などへの影響も考慮して慎重に行なわなければなりませんが、その際に行政書士はさまざまな調査や書類の作成などでお手伝いができると思います。

5 まとめ

相続放棄は、最近特に増えていると私は感じています。

やはり、借金と預貯金のバランスが悪く、借金のウエイトが大きい場合、安易に相続放棄をしようとする方が多いのも事実です。

また、子どもさんと残された配偶者との考え方も少々違うようです。配偶者の方は、相続をして残してくれた預貯金等を老後の生活費として活用したいところですが、

子どもさんからすれば自分たちに借金を被ることを良しとしないと、相続に対する考え方が明らかに違います。

ですので、行政書士として相談にお受けする際は、どなたも負担がかからないような分割の方法がないか探ることから始めます。

さらに、今後も生計を維持するために必要な預貯金はもちろんですが、居住し続ける住居の確保についても考慮して分割のプランを提案しています。

いろいろな立場と意向があるのは事実ですが、できる限り穏やかに相続を終えることが一番ではないかと思う次第です。

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