2020-03-03

尊厳死宣言公正証書とは?|延命治療拒否の書き方も解説

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尊厳死宣言公正証書とは?|延命治療拒否の書き方も解説

この記事の目次

医療が進歩したことで、かつてであれば命を落とすようなことになっていた病気やケガであっても、命を失うようなことにはならなくなりました。

その代わり、回復の見込みがない状態であっても、延命治療により生命の維持ができる時代なりました。

しかし、延命治療は本人にとって苦痛と感じることもありますし、闘病期間の終わりが見えないため家族にとっても負担になることもあります。

最近では「尊厳死」と言う言葉も聞かれるようになり、生前のうちに延命治療を拒否したいと考える人も増えています。

では実際に、尊厳死を行うためにはどのような書類を作成し、どのような形で残しておけばよいのでしょうか。

1 尊厳死の考え方を理解しましょう

尊厳死を考える前に、まず尊厳死とは何かを理解しましょう。

まず、法律上「尊厳死」と言う明確な定義はされていませんが、法律を作って明確な定義を定めようとする動きは見られています。

ですので、現状における尊厳死は、医療現場や現場を支える医師団体などが実情を踏まえて最終的に判断し、患者の家族などと協議のうえで延命治療を終了するかを判断することになります。

医療現場における尊厳死は、病気やケガなどにより身体の能力が低下し、かつ呼吸や栄養の摂取が自力ではできない状態になったときであり、その後も適切な医療行為を施したとしても、その回復が見込めない状態に至ったことを差します。

現状では、呼吸や栄養摂取を補助しないと生命が維持できなくなったとき、人工呼吸器や胃ろうや経鼻などによる栄養補給などを行い、生命をより長い期間延命させる「延命治療」を行います。

医師の立場では、「もう回復が見込めないので」と延命治療を停止する権限はもちろんありません。もし、延命治療をやめるとすれば、それは患者が元気だった時の意思を把握でき、その執行を患者の家族が望んだ時のみです。

実際、尊厳死と言う考え方正しいかどうかは人それぞれの判断になります。尊厳死であっても、延命治療であっても、いずれを選ぶかを何らかの形で意思表示しているなら、その意思を尊重するのが基本です。

病気や事故などによって、意思表示をする前に深刻な状態になってしまうことや、認知症などの要因で意思表情ができなくなってしまうことは十分にあり得ます。

そのため、起こりうる最悪の将来を予測して、自身の終末における医療行為について意思を明示しておくことは、医療技術がますます発展していくことを考えると、今後必要不可欠なのかもしれません。

2 生前に尊厳死を宣言する方法はあるのか

生前に自分の終末医療について宣言をすることは、尊厳死に関する法律がない現状であるため、公正証書として作成して残しておくか、関係団体に意思を残しておくことのいずれかになります。

現在「日本尊厳死協会」へ加入して尊厳死宣言書を保管してもらう方法と、尊厳死宣言書を公正証書として作成して公証役場に保管するという2種類の方法が一般的ですが、ここでは私がよくかかわっている公正証書による宣言の方法を詳しくご紹介します。

公正証書とは、自分の意思表情ができなくなった状況や、自分が亡くなった後の状況を想定し、自分の意思を明確に伝えるための文書です。

作成にあたっては、公証人に依頼して、公正中立な第三者のアドバイスや証明をうけて作成することで、法律的にも有効なものとして取り扱われます。

実際に公証人役場へ出向いて、公正証書を作成した場合の流れは、以下のとおりとなります。

 

1 公証人役場に連絡し、相談の予約を取ります。

2 以下のものを持参して公証人役場へ出向きます。

①印鑑登録証明書(発行後3カ月以内のもの)

②実印

③自動車運転免許証、旅券(パスポート)、住民基本台帳カード、個人番号カード、在留カード(外国人登録証明書)など官公署発行の写真入り証明書(作成時に有効であるもの)

④認印

3 公正証書の内容について公証人と打ち合わせをしましょう。具体的に望む内容や誰にその執行を任せるかなどをあらかじめ考えておきます。

4 改めて公正証書を作成する日時を決めます。作成日時までに公証人が文書等の作成を行いますので、最初の打ち合わせから1カ月程度日数を要する場合もあります。

5 公正証書の作成時には、最初の打ち合わせ時に持参した身分証明書と印鑑を持って公証人役場に出向きます。

6 公証人が作成した公正証書の内容を確認し、間違いなければ、署名・捺印します。作成時には原本と謄本(=副本)を各1部作成し、そのうち原本は公証人役場当役場にて厳重に保管してもらうことになります。

7 公正証書作成手数料を支払うと、公正証書の謄本を受け取ります。謄本は意思を執行する人に託すもよし、遺言やエンディングノートと一緒に保管しておき、万が一の時に誰もが確認できる状態にしておきます。ただし、改ざんされる恐れがないように適切な管理は必要です。

 

なお、公正証書作成基本料として1万円から2万円程度の手数料、謄本発行費用として2千円から3千円程度の費用が別途必要です。

また、公正証書の文面は、私たち行政書士に代行して作成をご依頼いただいても構いません。公証人に案としてお示しになり、打ち合わせの中で修正のうえお使いになるのもよいでしょう。

 

3 尊厳死宣言の公正証書例とは

尊厳死について記載する公正証書は、実際に私たち行政書士に内容の依頼をいただくこともあるものです。

私が関わった公正証書の例文を、この機会にご紹介したいと思います。

詳細は、以下のとおりとなります。

 

第1条 私xxxxは、私が将来病気に罹患した際、それが不治であり治癒の見込みが亡くなった場合、かつ、死期が迫っている状況を想定し、私の家族及び私に対する医療行為に携わっている方々に対し、以下の要望を宣言します。

 

1 私の疾病が、現在医学では不治の状態に陥っており、死期が明確に判断できることが担当医を含む複数の医師により診断された場合には、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わないでください。

2 終末期の身体的及び精神的苦痛を和らげる処置は実施していただくことは問題ありません。

3 前項の処置を行うことに伴い、処方された投薬の副作用により死亡時期が早まった場合、そのことを一切問題といたしません。

 

第2条 この証書の作成に当たっては、あらかじめ私の家族である次の者の了解を得ています。なお、本書における「私の家族」とは以下に明記する次の者を指すこととします。

 

妻 xxxx 昭和xx年xx月xx日生

長男 xxxx 平成xx年xx月xx日生

次男 xxxx 平成xx年xx月xx日生

 

第3条 私に第1条に記載している状況が発生したときは、私の意思に従い、私が人間として尊厳を保った状態で死を迎えることができるようご配慮をおねがいします。

第4条 私の要望に従って実施された行為の一切の責任は私自身にあることをここに宣言します。

第5条 警察、検察の関係者におかれましては、私の家族や医師が私の意思に沿った行動を執行したことを理由とし、各人を犯罪捜査や訴追の対象としないようお願いします。

第6条 この宣言は、私の精神状態が健全な状態にあるときに行ったものであり、心身ともに正常な判断を行える状態であることを宣言します。

第7条 この宣言は、私の精神状態が健全な状態にあるとき、私の遺志により撤回することとし、撤回しない限りはその効力が継続することを宣言します。

 

そもそも、尊厳死に関する宣言を公正証書で作成する理由は、本人の意思であるか間違いないことを立証するためです。

同様の意思を口頭で誰かに伝えておく、自分の手で文章に保管しておくことでも問題はなさそうですが、誰かに自身の意思を改ざんされる恐れがあること、あるいはその疑いを拭い去れない場合には、延命治療を停止することは絶対できません。

「正常な状態において本人が第三者の証明を得て宣言していること」が立証されなくてはならないため、その確実な方法として公正証書を用いていることを理解しておきましょう。

4 尊厳死宣言の課題

尊厳死をいくら宣言しても、それを執行しないケースも実際にあります。

また、尊厳死宣言を執行しないことで誰かが罪に問われることはありません。

むしろ、医師などは延命治療を実施しないことで、殺人容疑など別の角度から罪に問われる危険性もあるわけで、生前に宣言しているから問題ないと、簡単に延命治療をやめることはありません。

確かに、公正証書として残された尊厳死宣言は、本人の確かな意思であったことを公証人によって保証されており、少なくとも「本人が尊厳死を求めていた」ことは事実としてゆるぎないものとなります。

ですが、家族の死を目の前にして、かつては同意していた家族たちもその同意が揺らぐことはあります。自分たちの判断が家族の死を左右するとなった場合、果たして本人の意思だけで延命治療をやめられるかと言えば、それはかなり難しい判断になります。

尊厳死宣言をしたいと考えるのは、人間として1つの権利として認められるべきかもしれませんが、その宣言によって家族たちがどのような悩みを抱えるのか、執行する側の心情にも十分寄り添う必要があるとは思います。

5 まとめ

尊厳死については、厚生労働省が平成19年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定しています。

このガイドラインには「終末期医療に関して、本人の意思が分かれば、できる限りそれを尊重しましょう」とされていますが、法律でもなくあくまでガイドラインなので、法的に拘束力を持ったものではありません。

むしろ、このあいまいな状況が続くのではなく、明確に法律化して、本人や家族の悩みや判断を法律的にフォローしてあげられる仕組みづくりが必要ではないかと思います。

がんや脳梗塞など、意思表示が困難な疾病、認知症などの意思表示が不明瞭になる事態も多くなっています。将来的に家族を困らせたくないために、尊厳死を考える人が増えているのもそれが理由です。

将来を考える中で、どのような人生の終え方が一番望ましいのか、それを考える中で「尊厳死」についても考慮しておく方がよいのかもしれません。

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