2020-05-05
墓地は勝手に作れない?墓地経営の手続きと流れ|行政書士の目線で解説
この記事の目次
親の世代が無くなったことでクローズアップされるのが「お墓」の問題。終活カウンセラーである私にも、
終活を検討している方々が「自分のお墓はどうなるのか心配だ」とか「後の世代にお墓のことを任せておくのが心配だ」とお話になる方も多くなっています。
実際、首都圏ではお墓を購入したくても空いているお墓が無かったり、空いていても高額なために手が出ず「お墓難民」と言われる現象も起きている地域があります。
土地を持っていれば、そこにお墓を立てればいいのではないかと考える人もいますが、実は法律上お墓を作ることは簡単ではないのです。
では、実際にお墓を作る際にはどのようにすればできるのでしょうか。
1 国の法律「墓地埋葬等に関する法律」で墓地経営のルールが決められている
国の法律では、お墓の定義を「墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市又は特別区にあっては、市長又は区長)の許可を受けた区域をいう」としています。
都道府県あるいは市については条例を定めて、墓地を経営する場合に必要な許可の流れを定めています。
ここで気になるのは「経営」と言うキーワードです。ただ作るだけなのに経営とは仰々しいと思う人もいるでしょうが、法律では墓地の管理について厳しいルールが定められているのです。
基本的に、墓地を経営する者には「墓地を管理する義務」と「埋葬された人の履歴を把握する義務」があります。
前者は、周辺の生活環境に悪影響を与えないように美化に努めること、後者は納骨された人々の履歴を「火葬許可証」を受領することで確認し、
台帳として管理することです。納骨の場合、途中で「改葬」として別の墓所等に移動することもあることから、異動の履歴についても同様に把握することが義務付けられています。
一般的に、墓地の経営は宗教法人や公益財団法人、地方自治体にしか認められません。先ほど掲げた墓地の管理において、適切な運営がなされるためには一定の資質を有する法人でないとそれができないと考えているからです。
法人に対して許可される「法人墓地」とは別に、申請者とその一族だけが使用する「個人墓地」については、面積の制限はあるものの個人に対して許可されることもあります。
ただし、個人墓地は自治体によって制度がない場合もあります。都心部など墓地の造成を抑制する必要がある自治体や、公営や民営の墓地が十分用意されているため個人に対して墓地を経営させる事情がないなどがその要因です。
個人墓地の場合、基準は法人墓地と変わりはありませんが、許認可の窓口が市町村に移管されています。自身の居住地でどのような墓地が経営できるのかは、まず担当課に確認しておきましょう。
2 法律ができる前からの墓地は「みなし墓地」として使用が追認されている
法律の第26条では「この法律施行の際現に従前の命令の規定により都道府県知事の許可をうけて墓地、納骨堂又は火葬場を経営している者は、この法律の規定により、それぞれ、その許可をうけたものとみなす」と、明記されています。
法律が施行されたのは昭和23年6月1日ですから、その日以前より合法的に墓地として使用してきた場所は、法律施行後も引き続き墓地として認めるという条文です。これらに該当する墓地を「みなし墓地」と呼びます。
みなし墓地には、ほかにも次のようなものが挙げられます。
○共同墓地
共同墓地とは、その地域の住民だけが使用することを前提として、地域内の山間部などに設けられている墓地のことです。「集落墓地」「部落墓地」「村墓地」などと呼ばれることもあります。
共同墓地は、町内会などの地域団体や、墓地使用者が組合を設けて運営されていることも多いのですが、時代を経て組織が無くなってしまった結果、運営主体が存在しない墓地も増加しています。
○寺墓地
寺院や神社が経営している墓地のことです。寺院や神社の境内や隣接する土地で経営されていることが多く、この場合経営主体はそれぞれの寺院や神社になります。
また、キリスト教のカトリック派や天理教などでは、信者が組織立って墓地を管理していることがあり、これも共同墓地に該当するものとなります。
特に創価学会では大規模な納骨堂(建物形式の納骨施設)や霊園を主要な地域に設置していて、会員のための墓地として経営されている事例もあります。
○個人墓地
戦前より、祖先が所有している土地に先祖代々を埋葬している墓地のことです。いわゆる「本家」と呼ばれる家の場合、歴代のお墓を管理していることも多く、
1つの家で数十基のお墓を管理しなくてはならない場合もあり、お墓の管理が大きな負担となっているケースもあります。
これらのみなし墓地では、法律で使用が認められているので、今後も引き続きお墓を使用することは問題ありませんが、みなし墓地の前提は「現在の法律以前より許可を得て使用しているお墓」となっています。
昔の法律で許可を得ているかどうかなんて、今になって判明するかどうかわからないと悩む人もいるでしょう。
先祖が大切に保管している書類の中に許可証があれば問題ないでしょうが、それ以外に昔の許認可を調べる方法と言えば、自治体の墓地担当課に確認してみるしかありません。
ですが、実際に自治体でも明治や大正のころの墓地の許認可にかかるデータを持っているところはほぼ皆無です。
一つ確実性があるのは土地の登記です。登記の際には用途に応じて「地目」が定められますが、その地目が「墓地」となっていること、墓地となったのが現行の法律施行日の以前からであれば、みなし墓地と判断することができるでしょう。
もしみなし墓地であることが確認できれば、これ以上許認可を得る必要はなく、今まで通りお墓として使用することは問題ありません。
3 墓地の経営を申請するには
一般的には、墓地の経営を申請する場合、基準を満たしている場所でなければ許認可はされません。
基準としては次のようなものが定められていることが多いです。
○距離
予定地の半径100m以内に学校などの公共施設がある場合、許可されない場合があります。
○同意
隣接地の所有者、予定地の半径100m以内に存在する建物の所有者が同意しない限り、許可されない場合があります。
○分筆
墓地として使用する部分の土地を分筆することが条件となっていることが多いです。分筆した後、実際に墓地として使用する部分の登記を「墓地」として届け出る必要があります。また、所有権を申請者に移管しなくてはなりません。
○土地の用途変更
農地の場合は「農地転用」や「農業振興地域除外申請」など、予定地に定められている土地の制約をクリアしてからでないと、申請することはできません。
○経営方針
宗教法人が運営する「法人墓地」の場合は、上記の基準に加えて経営時の約款や財源の提示など、継続して墓地を経営することができる根拠を示し、適正に運営しえる法人であることを立証するためにかなりの資料が求められます。
これらの条件をすべて満たし、申請をして判断を仰ぐことになります。
自治体によっては、法人墓地の許認可に関しては第三者機関として設けている審議会で審議することがあります。審議会では学識経験者や法曹関係者などが委員となっていて、墓地経営の許認可にして審議がなされます。
もし、条件を付与されて許可された場合は、その条件すべてをクリアしなければ墓地として使用することができない、厳しい条件となっています。
個人墓地の場合は、審議会に諮られることはありませんが、周辺住民の同意など必要な書類に疑義が生じた場合は、許可が出ないこともあります。
4 勝手に墓地を作った場合はどうなる
もし、必要な許可を得ずに墓地を新設したり、既存の墓地を拡張すると刑法に違反することになります。
後者の場合、みなし墓地を勝手に広げることが該当します。みなし墓地は、あくまで現行法律の施行日以前に墓地として使用していた部分のみが合法的に使用できるだけであり、
その部分を勝手に拡張したり、自分とその近親者以外(いわゆる他人)に使用させることは違法になります。
仮に刑事罰を受けた場合、6ヶ月以下の懲役または五千円以下の罰金になります。刑事罰になるので前科がついてしまい、職業によっては就けなくなってしまう職業もあるでしょう。
また、自分が墓地を作るのではなく、販売されている墓地を購入した場合、そこが果たして法律上合法的な墓地になっているのかは、確認する必要があります。
直接経営者に確認するとしても、都合のいい説明しかされない場合もあるでしょう。その場合は、自治体の墓地担当課に確認して許認可の有無を教えてもらいましょう。
合法であれば許可番号などを教えてもらえ、経営者がパンフレットなどに許可番号を掲載している場合は照合することもできます。
もし、違法な墓地を購入してしまった場合、違法であるのに合法であるかのごとく販売時にふるまっていたのであれば、詐欺罪が適用可能です。
契約に至るまでの経緯の中で、事実に反する説明を受けていたことを立証する必要がありますが、不安な場合は交渉時の履歴をメモしておくか、ICレコーダーで記録しておくなどの防衛策が必要です。
5 まとめ
墓地経営と言っても、実際に寺院に問い合わせてみると「委託している石材店に問い合わせるように」などと、名義貸しのように運営されている墓地も存在することは事実です。
法律上、宗教法人が墓地の経営に関する事務を第三者たる企業に委託することは問題ではありませんが、
ユーザーとしてはまず適切に墓地を運営してもらえるのか、トラブルが生じた時でも誠心誠意対応してもらえるのかを判断するための材料を集めましょう。
どんな運営形態であっても、自分はもちろんのこと、後の世代が安心して墓地を使うことができれば問題がないわけですから、費用の面ももちろんですが、信頼できる運営がなされているかどうかもぜひ重視してください。